3月11日が近づいている。

昨日も地震があったようだが、当方は当然、気づかず深い眠りを堪能していた。

さて、日航のカウンターの係員は、息を呑み、目を丸くしたままであるので、すかさずマイルのカードを出して
「これで調べて頂ければ分かるわ。さあ、早く航空機を飛ばして頂戴。日本まで。」

魂が抜けた係員は、操り人形のようにパソコンの画面に当方の客番を入力する。

『こいつは、最早、当方の傀儡である。
これで、政府専用機は飛んだも同然だ。』

ほくそ笑む当方に向かって一言

「お客様、マイルが無いようですが…」

え？何ってるの？そんなわけ無いじゃん。ついこの間、ペルーまで飛んだんだよ。
そのマイルだって大変な数だし。
日本が大地震で混乱しているから、コンピューターまでおかしくなってるんじゃなの？

いや、待てよ。
そもそも、当方はいつもどこの航空会社を使っていたっけ？
そうだ。
ANAだ！
げえええ！

今回は、義母の日航リクエストに応えて、どうせ私が料金を払うわけでは無いからANAじゃなくて、日航でもいいやと思って予約したんだった…。
なんで、年寄りは、ANAじゃなくて日航を好むのか？
ナショナルフラッグだから？
それって、やっぱり明太子は「かば田」に限るって言うのと同じ思考回路だ。
明太子は、別に「福屋」でもいいではないか？
これだから年寄りは困る。

いや、そんなことはどうでもいい。
どうしよう。
上得意と言いながら、飛んだトンチキ野郎ではないか？
これじゃ織田信長ではなく、明智光秀も押し黙る慌て者じゃないか！

「お客様、とにかく日本の空港が全てクローズされているのですから、帰国は現時点では無理です。今後のことは、よくよくお考えくださいませ。」

よくよく考えてこの為体である。

疲れた義母と無駄に大きなスーツケースを引き摺りながら、空港のロビーの椅子に腰を落とす。

「これからどうしたもんやろうね。やっぱり、暫くはタイで暮らすしかなかろうもんかね？」

義母が呟く。

確かにタイで若い男を捕まえて暮らすのもよかろう。
タイの主婦は、料理をせずに屋台で50円のおかずを買って食卓に並べると聞いたこともある。
料理が大嫌いな当方にとってはまたと無い環境であろう。
だが、義母はどうする？
タイの若い男は、当方の魅力に夢中になるあまり、義母を蔑ろにするかもしれない。
当方は、もう上がっているので、子どもは産めないが、更年期の女の魅力がプンプンしている。
恐らく、甘い新婚生活を夢見るタイの若い男は、義母を裏山に棄てるであろう。
これが本当の姥捨山である。

との現実と妄想が入り混じった頭に、義母の一言が刺さる。

「お腹空いてしもうたね。」

そうだ！
義母は空腹であった。
男よりもまず、食料である。

「お母さん、今、私が何か買ってきますね。パンでもなんでも食べられるものならなんでもいいですよね？戦時中を生き抜いたお母さんなら、芋の蔓でも野草でもなんでもいけますよね？私がいない間、知らない人について行ってはダメですよ。特に親切そうに話しかける人間には注意してくださいね。スーツケースは盗られたって、我々の汚い下着しか入っていませんが、パスポートの入ったバックは絶対に体から離さないでくださいね。ここから動かないでくださいね。」

と、念を押して、当方は食料調達に出かけたのであった。

タイの空港に着いてから既に3時間、流石に当方も疲れと眠気を感じていたが、ここが踏ん張り所。
石橋山の合戦である。
敗走して房総半島に逃げた源頼朝を想いながら、食べ物を探して彷徨う当方。
しかし、売店はクローズのまま。
レストランもクローズ。
どこもクローズか！

成田も羽田も関空も。
タイの空港の食べ物屋までクローズか！
ブルータス！お前もか！

と、怒りに震えながら、ふと思い付き、再度、日航のカウンターに向かった当方。

すると係員が大声で当方を呼ぶ！
すわ、義母に何かあったのでは？
あああ、やはり、年寄りをひとりにするのではなかった。
おかあさああああああん！！！！

「お客様、ちょうど今、成田が2時間だけオープンになるとの情報が入りました。そして、2席だけ座席が確保出来ます。すぐにチェックしてください！！！」


ふふふふ
はははは
あははははは

ほら見ろ！
やはり当方は最強運の持ち主である！

足利義満も平伏すが良い。

「ありがとうございます！！！！Angu以下2名、只今、チェックインします！！！」

と叫び、義母のところへマッハgogogog

さあ、今度こそ本当に帰国できるのか？
諸兄の皆さんが涙を浮かべているのが見えるようである。

この続きは、明日です。

今日は、良き天気に恵まれて絶好の学問日和だ！
さて、これからお気に入りの喫茶店で法学の勉強をしよう！

「命！燃やしていますか？」